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大阪地方裁判所 昭和50年(ミ)12号 決定

申立人

株式会社吉田鉄工所

右代表者

吉田一夫

右代理人

上坂明

外五名

主文

株式会社吉田鉄工所につき更正手続を開始する。

理由

第一申立の要旨

一会社の概要

1  会社の目的

(一) 各種ボール盤その他諸機械製造、販売ならびに修理

(二) 右に附帯関連する事業

2  発行済株式の総数

一〇〇〇万株

3  資本の額  五億円

4  会社の経歴および業務の状況等

(一) 申立人会社は、現代表取締役吉田一夫の先代吉田嘉市が大正八年吉田鉄工所(個人経営)を創業し、ボール盤の製造ならび販売を開始したのに由来する。その後昭和二四年七月二二日、資本金一〇〇万円を以て現在地に本店をおき、現代表取締役吉田一夫を中心として設立され、ボール盤を鋳物から機械の完成品にするまでの一貫して生産する専門メーカーであり、特に直立ボール盤の生産は全国で七〇%以上のシエアを占め、「吉田のボール盤」としての名声を博し、国内はもとより、世界各地にまで確固たる地位を有していたものである。

(二) 資本の推移の概要

(1) 昭和三八年九月 資本金一億円

大阪証券取引所二部上場(同月二七日付)

(2) 昭和四二年一一月一日

資本金三億円

東京証券取引所二部上場(昭和四四年一〇月一日付)

(3) 昭和四五年四月一日

資本金五億円となり現在に至る。

(三) 株主

(1) 株主総数一一一二名

(2) 大株主(一〇万株以上)

(株主名)   (株式数)

吉田一夫

五、七三六、九〇二

湯浅金物株式会社 三〇〇、〇〇〇

住友銀行 二五〇、〇〇〇

三井銀行 二五〇、〇〇〇

三和銀行 二三八、〇〇〇

第一勧業銀行 二〇〇、〇〇〇

三井信託銀行 二〇〇、〇〇〇

東海銀行 一七五、〇〇〇

住友海上火災保険 一〇〇、〇〇〇

(四) 役員

取締役社長(代表取締役、営業本部長) 吉田一夫

常務取締役(総括)

長谷川薫三

同  (生産本部長)

松浦正一

取締役(営業副本部長)

加藤久雄

同  (奈良工場長)

楠巌

同  (総務部長)

吉田一郎

監査役 野口寛

同 上坂明

(五) 従業員 三四六名

(1) 組合員     三〇八名

現業男子    二一一名

現業女子     二六名

職員男子     八五名

職員女子      九名

このうちの大半のもの(係長以下)が同盟系の全大阪金属産業組合同盟吉田鉄工所労働組合を構成し、現在一一名が総評系の全大阪金属産業労働組合吉田鉄工所分会に属している(この分会との関係では過去数年抗争があり、昭和五〇年七月末にいたり和解が成立した。)

(2) 非組合員  三五名

(六) 本社 工場、支店等

(1) 本社

(2) 本社工場

(3) 奈良工場(大和郡山市井戸野町三六二)

昭和三九年一〇月第一期工事(鋳造工場)完成

同 四六年一月第二期工事(機械工場)完成

(4) 東京支店

(5) 営業所 名古屋、広島

(七) 得意先

(1) 総販売代理店

イ 湯浅金物株式会社(主力)

ロ 五味屋株式会社(エコー、スーパー型のみ)

(2) 直販

直販は、月商一〇〇〇万円程度

(主な直販先)

豊田機械工業株式会社

金子機械製作株式会社

黒田機工株式会社

(八) 材料の主な仕入先

銑鉄 大銑産業(株)

鋳物材料 (株)西村商店

鋼材 中里鋼材(株)

太平金属(株)

外作鋳物 太平鋳工(株)

(株)大亀製作所

電動機 (株)同和商会

制御装置 富士通フアナツク(株)

軸受 太富機工(株)

外作部品 神田歯車(株)

鍛造品 (株)福崎鉄工所

工具器具 石金機工(株)

(株)カオル産業

卓上ボール盤外作

ニチボー工業(株)

(九) 輸出

輸出高は、総売上高の約三%程度でありその地域はアメリカ、カナダ、イギリス、オランダ、ベルギー、西ドイツのほか、東南アジア各地に及んでいる。

(十) 主たる取引銀行

住友銀行玉造支店

第一勧業銀行今里支店

三井銀行東大阪支店

三和銀行中之島支店

東海銀行今里支店

協和銀行今里支店

大阪銀行今里支店

近機相互緑橋支店

幸福相互銀行今里支店

三井信託銀行大阪支店

住友信託銀行阿倍野支店

二、資産、負債その他の財産の概況

1  申立時現在の会社債務総額(概数)

六二億三二〇〇万円

公租公課総額 五四〇〇万円

低当権附債務総額

二二億八八〇〇万円

譲渡担保付債務総額

二億七四〇〇万円

従業員賃金、解雇予告手当、退職金、夏季一時金未払分

一五〇〇万円

右以外の一般債務総額概数

一一億八三〇〇万円

2  申立時現在の資産総額(概数)

帳簿価格 六七億七七〇〇万円

実有価格  八六億円

(右は別紙不動産目録(一)(二)の土地を時価二一億円と評価したものである。)

三、更正手続開始の原因

1  申立人会社は、事業経営に不可欠の設備の売却など事業経営に著しい支障を来たすことなく弁済期にある債務を弁済することができない。

(一) 申立人会社は、昭和五〇年一〇月三一日現在において金融機関からの借入金は、次のとおりである

短期借入金

九一六、六三〇、一三五円

長期借入金

一、三五四、八九〇、〇〇〇円

合計金

二、二七一、五二〇、一三五円

右借入金は、いずれも分割返済の約のものであるところ、昭和五〇年一月においてその支払額は月額約八〇〇〇万円であつたが、その支払ができないため、その頃より支払の猶予を各金融機関に懇請した。そして、結局本社および本社工場を売却しなければその支払の目途が立たないということで、これを同年六月末日までに売却し、その代金(予想売却代金約八億円)を以つて、同年七月には延滞猶予分を支払う約のものであつた。

ところが、この売却ができなかつたため、右の支払が遅滞している状況である。

(二) 公租公課等

申立人会社は、昭和五〇年一一月一〇日現在において合計金五三、八九四、三五四円の源泉所得税等を遅滞している。この支払いも前記のとおり、事業経営に不可欠の設備(本社工場等)を売却するなど事業経営に著しい支障を来たすことなしには弁済ができないものである。

2  申立人会社には、近く破産原因たる支払不能の生ずるおそれがある。

(一) 申立人会社は、極く近いところでは左のような支払をしなければならない。

(1) 昭和五〇年一一月一一日より同月一五日の間金四六、五七五、〇〇〇円

(2) 同年一一月一六日より同月二五日の間金七九、〇三〇、〇〇〇円(この内給料等人件費五九七〇万円が含まれる)

(二) これに見合う収入としては、右の

(1) に対応する期間に一〇〇万円

(2) に対応する期間に二三〇〇万円

であり、前月繰越を加えて行つても、同月二五日には、五三、七六二、〇〇〇円の赤字が生じることとなり、支払不能となるおそれがある。

そして、その後は次の如く資金の不足額が累増する見通しとなる。

同年一一月末日

五九、四五八、〇〇〇円

同年一二月末日

一一四、二〇八、〇〇〇円

同五一年一月末日

二一六、九五八、〇〇〇円

同年二月末日

三〇五、四〇八、〇〇〇円

しかも集金の状況が、当初の見通しよりも低下しており他よりの借入の見入のない現状では、右の資金繰りは、さらに悪くなる見込で、おそくとも本年一一月二五日には不渡を出さねばならぬ見通しである。

四、更正の見込

申立人会社に対し更正手続開始決定があれば、次のとおり更正が期待できる。

1  不動産の売却

今後の会社再建については、余剰資産の売却を強力に進め、借入債務を返済することにより、支払利息を軽減させることが先づ第一に肝要である。現状および将来の売上状況から見て、本社工場敷地、製品展示場(倉庫)敷地、および独身寮敷地は余剰資産と見られるが、この売却概算額は、十一億円強となり、銀行定期預金一五億円の借入返済(相殺)をすることがでぎれば、手形担保借入以外の銀行債務を完済でき、また金利や固定費の節減、合理化が促進できる。

2  売上の確保

会社の製造する工作機械は現況および将来の予測から見て月商二億ないし三億円と見込んでおり、これに見合う生産設備は、不動産、機械設備共、奈良工場で充分である。しかしながら、人員面では、かつて四億円余りの生産をあげていたので、現状では約一二〇名程度が余剰となつている。

3  新製品の開発

会社は右の人員整理について、不本意ながら鋭意交渉にあたつて来たが、一方、これらの人員の生産吸収についても考慮を重ねていたところ、「壁体の間に水を入れた防音ハウス」について、実用新案権出願者から専用実施権を前提とした製作販売を引受ける交渉が進展し、昭和五〇年一一月に今後有望との判断を持つて契約調印に踏切つた。

これについては、現在既に技術製作面で完成しており、大阪空港での実験では、在来の防音壁体では到達しなかつた効果テストをあげることに成功した。従つて、人員整理計画の余剰人員を、この生産および販売に振り向けることは、充分可能であり、また、この受注についても既に五一年一月納入成約した日本専売公社(東京)の機械室防音、その他数件の引合いが来ており、会社が倒産せず、後数ケ月の運営ができるならば、防音ハウスの生産販売は軌道に乗せることができることは確実である。

奈良工場では、この他、住宅用門扉(アルミ製)およびフエンス(鋳物製)についても生産を始めており、一部は販売を開始したが、これら新製品への転向が遅きに失したのも、会社の行結りを招いたものということができる。

右の通り、工作機械以外の新製品(防音ハウス、門扉フエンス等)は、その製作に充分自信を持つており、今後、販売ルートを拡大して行くならば五一年度中には月商四〇〇〇万ないし六〇〇〇万円をあげることができるものと確信している。

以上は極く大すじの再建案骨子であるが、申立会社の優秀な設備と技術は業界でも高く評価されており、上場会社である申立会社が破産になれば多数の従業員、関連業者に影響するところ大であり、深刻な社会問題や国際問題となるのみならず日本の国家的損失にもなるわけである。

よつて申立会社は会社更正手続開始の決定を求める。

第二当該裁判所の判断

一本件各疎明資料、申立人会社代表取締役吉田一夫および取締役長谷川薫三の審尋の結果、申立人会社に対する検証の結果、調査委員の調査報告、債権者および従業員の意向聴取、保全管理人寺本雄造の報告書および上申書、その他当裁判所の調査の結果を総合すると、申立の要旨の一の「会社の概要」記載の各事実ならびに昭和五〇年一一月三〇日現在の申立人会社の財政状態は別紙の如く債務超過であり、この債務超過は今日に至るも解消されていないこと、また、同会社は昭和五〇年一一月一二日以降同月末日までに支払手形決済資金七〇〇〇万円、人件費六二〇〇万円、利息・経費六〇〇万円、その他七〇〇万円、以上合計一億四五〇〇万円の資金を必要とするのに対し、手持資金として現金八三〇〇万円を有するに過ぎず、売上も同年一一月一日から一二日まで五〇〇万円のみでその後の売上は見込めない状態であつたため、同月末日までに多額の支払手形の決済が不能になることが明らかであつたことを、それぞれ認めることができる。

このように、同会社には破産の原因があるので、更正手続開始の原因のあることが明らかである。

二そこで、次に前掲各証拠により申立人会社の更正の見込の有無について検討する。

1  前記の如く、申立人会社の財政状態は債務超過であるが、これは、昭和四五年三月期を境に急速に悪化した業績の結果であり、短期間に突然発生したものではない。そして、現在その資金繰りは極度にひつぱくしており、従業員の賃金さえ、本年一月分の六二〇〇万円を同年二月中に全然支払うことができず、同年二月分の六〇〇〇万円についても未だに全く支払われていない程である。

申立人会社の財政状態が、業界における圧倒的な知名度と市場占有率にもかかわらず、かくも悪化した主な原因として次の事実をあげることができる。

(一) 申立人会社の製品であるボール盤は、鉄板等に孔をあけるという最も基礎的な工程に関する工作機械であるため、それに対する需要は景気の変動の影響を非常に受けやすいにもかかわらず、同会社は需要の予測を合理的に行わず、また、厳格な原価計算をしないで新機種を開発して販売したため採算のとれない製品を生産、販売したこと、

(二) 申立人会社は、販売方法として総代理店である湯浅金物株式会社に貿易および官庁向け売上以外のすべてを依存した結果、製品に対するユーザー、デイラーの意向を充分に調査せず、結局実需の真の動向を正確に把握できないまま、湯浅金物株式会社への押し込み販売で売上げの減少を糊塗してきたこと

(三) その結果、申立人会社は、昭和五〇年一月に湯浅金物株式会社から在庫商品の過剰を理由にその製品買取りの大幅な縮少を受けることにより、申立人会社の売上高は以後激減するに至つたこと

2  前記のように申立人会社の製品の売上高は景気の変動を受けやすいものであるから、現在の如く設備投資が極端に不振で、かつ、早急な回復を望めない状態においては、需要の増大は望めない。そのうち、申立人会社の総代理店である湯浅金物株式会社は、申立人会社の押し込み販売の結果、現在約一八億円の在庫商品をかかえており、同社もこれ以上の在庫商品をもつことは困難な状態にある。

3  このような情況のもとでは、申立人会社について更正手続を開始しても、その今後の売上高は当分の間一ケ月一億円程度が限界と予想されるが、本件申立時の従業員数三四六名では一ケ月約三億円の売上げに相当する製品の生産能力をもつているので、今後営業を継続するためには、大巾な人員整理を必要とする。

そして、前記未払賃金、人員整理に伴う退職金および当面の運転資金を調達するためには、申立人会社所有の不動産のうち本社工場の土地建物(別紙不動産目録(一)の(1)ないし(4)、同目録(三)の(1)ないし(4)、(7))、本社独身寮の土地建物(同目録(一)の(5)ないし(7))、同目録(三)の(6))、展示場の土地建物(同目録(一)の(8)ないし(10)、同目録(三)の(6))、奈良筒井社宅の土地建物(同目録(二)の(20)、同目録(四)の(4))等の不動産を早急に一一ないし一二億円程度で売却する必要がある。

4  さらに、申立人会社を再建するためには、厳格な原価計算製度を確立し、全製品の原価を明確に把握するとともに不採算機種を整理すること、奈良工場の製造工程の徹底した合理化をはかり製造原価の低減に努め、また、品質管理を厳重に行うこと、従業員の経営者に対する不信を取除き労使の信頼関係を回復する総代理店、デイラーその他取引先および債権者の積極的協力を得ることが必要である。

5  以上に述べたように申立人会社の再建には多くの困難な問題があるが、そのうち人員整理については希望退職募集の結果昭和五一年二月二七日現在で一六八名が退職し、従業員数は一七八名となり、なお、若干の退職者の出ることが予想される状況にある。次に前記不動産の早急な売却も、本社独身寮および奈良筒井社宅については、ほぼ確実に行われる見通しがつくに至り、その他の不動産も更正手続を開始すれば予定の価格で売却できる一応の見通しがある。そして、総代理店、デイラーその他取引先および債権者の多くは申立人会社の再建に協力する意向を表明し、また、残つた従業員も会社再建への熱意をもつている。申立人会社の内部の前記諸問題は、更正手続の開始後、管財人によつて解決することが可能と考えられる。

6  さらに、総代理店の努力により、申立人会社の製品の価格は現在も堅持され、更正手続が開始されれば、直ちに販売の促進が総代理店と申立人会社の協力のもとに強力に行われる予定である。

本件申立に至るまで申立人会社は直立ボール盤の市場の約七〇%を占め、持にYD2―54型を中心とする直立ボール盤の性態は優秀で高い評価を受けているので、前記の販売促進の努力は、申立人会社の再建にとつてかなりの良い結果をもたらすことが予想できる。

7  以上に検討したところを総合すると、申立人会社の将来に楽観は許されないものの、更正の見込みがあると認められ、その他に会社更正法三八条各号所定の申立を棄却するべき事由も認められない。

三よつて、本件申立を認容することとして、主文のとおり決定する。

(首藤武兵 管野孝久 大谷種臣)

申立人会社の財政状況

昭和50年11月30日現在

資産

金額

負債・資本

金額

摘要

現金預金※1

15億

2,255万円

支払手形・買掛金

11億

8,300万円

※1.預金のうち14億4千万円は

借入金の担保となつている。

※2.借入金の担保となつている製品である。

※3.このうち建物・土地はすべて

借入金の担保となつている。

売掛債権

8,315

手形担保借入金

18

1,665

譲渡担保手形

15

7,586

借入金

25

7,380

棚卸資産

8

1,834

未払金・未払費用等

3

4,748

担保付製品※2

2

4,168

退職給与引当金等

2

5,295

その他の流動資産

1

3,995

資本金

5

0,000

固定資産※3

15

2,415

欠損金

△7

6,820

合計

59

0,568

合計

59

0,568

不動産目録(一)、(二)、(三)〈省略〉

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